旅や旅行に出る前に必要なのが予防接種。
たくさん種類があってどれを打ったら良いのやら…
と途方に暮れている人も少なくないでしょう。
そんな人のために臨床検査技師の私が、医療従事者という知識を活かして必要度とともに解説します。
主な予防接種
破傷風
必要度★★★
破傷風とは傷口などから破傷風菌が入り込み感染する病気です。
かかった場合に死亡する確率が極めて高いので、必ず打っておきましょう。
一度打っておけば、その効果は10年持続すると言われていますので、前回の接種から10年以上経っている場合は再度打つことをオススメします。
破傷風菌は土の中に存在します。
特に動物の糞で汚染された土が危険ですので、街中を牛が歩き回るインドなど、衛生面が不安な国へ行かれる場合は必須です。
傷口から入り込むことが多いので、怪我をした後は特に気をつけてください。ガンジス川に入るのもやめておきましょう…破傷風以外の危険もありますし…^^;
黄熱病
必要度★★★(国によっては★☆☆)
黄熱病はアフリカや中南米を中心に流行している病気です。
蚊を媒介して伝染する病気で、発熱や黒色嘔吐、腎障害、下血などの症状があり、最悪の場合は死に至ります。
黄熱病のワクチンを接種すると『イエローカード』という証明書が発行されるのですが、これがないと入国できない国がありますので、その場合は必ず接種しておきましょう。
それ以外の国では特に接種する必要はありません。
イエローカードが必要な国は、以下の厚生労働省のページから確認が出来ます。
ワクチン接種には事前の予約が必要ですので、必ず余裕を持って準備しましょう。
以前は接種後10年間の有効期限がありましたが、現在は生涯有効へ変更になりました。
ちなみに…
コロンビアのボゴタの空港では、無料でワクチン接種が出来ます。
狂犬病
必要度★★☆(場所によっては★★★)
狂犬病はアジアやアフリカにおいて危険がある病気です。
日本国内では1957年を最後に感染者は出ておらず、撲滅に成功したと言われています。
狂犬病のウィルスを持った動物に噛まれ、その唾液と共にウィルスが人間の体内に入る事によって感染します。
噛まれた場合だけでなく、目や口などの粘膜、傷口などを舐められた場合でも感染の危険があります。
これは意見が分かれると思いますが、私は★2つ。
都市部から離れた緊急対応が難しい地方へ訪れる方は、必ず打っておきましょう。星★3つです。
ただ、観光地などの都会のみを訪れる予定の人はどちらでも良いと思います。
もちろん金銭的に余裕があるのであれば打ってください。
何故かと言いますと、狂犬病というのは事前ワクチン未接種でも、噛まれた後に病院へちゃんと行ってワクチンを打てば効果があります。
そのため、動物に噛まれてもすぐに病院へ行ける環境にいるのであれば、事前ワクチン接種の優先順位は落ちます。
ただし、狂犬病が発症してしまうとほぼ100%の確率で死に至りますので、海外…特にアジアやアフリカにおいて動物(犬に限らず)に噛まれた場合は、なるべく早く病院へ行きワクチンを接種してもらいましょう。これを暴露後接種と言います。
A型肝炎
必要度★☆☆
A型肝炎とはA型肝炎ウィルス(HAV)に感染することでなる病気です。
感染経路は糞口感染です。
原因は不衛生な水や食事。
糞便で汚染された物を口に入れることで感染します。
つまり、衛生面に不安のある途上国において感染の危険がある病気です。
潜伏期間は2~7週間と長め。死に陥ることは稀で、ほとんどが1~2ヶ月で回復します。
日本で予防接種を打つ場合は、1回目を打った後、2~4週間あけてから2回目を打ちます。その後6ヶ月後に3回目を打って完了です。
3回目を打てば5年間は有効であるとされています。
海外で打つ場合は国によってワクチンの種類が違い、1回や2回の接種で済むこともあります。
死亡率が低い上、潜伏期間が長く、発症する頃には日本に帰国し適切な治療が受けられる事を考えると、予防接種の必要度は★1つにしましたが、途上国に長期間(1ヶ月以上)滞在する場合は打っておくと安心です。
B型肝炎
必要度★☆☆
B型肝炎とはB型肝炎ウィルス(HBV)に感染する事で起こる病気ですを
主な感染経路は血液感染。
そのため、普通に旅をしているだけでは感染する可能性は低く、ワクチン必要度も低くなります。
1年以上の長期間で滞在する場合は打っておくと良いでしょう。
看護師を始め、医療従事者は針刺し事故などにより感染のリスクがあるため、学生の頃の実習前などに打っていることの多いワクチンでもあります。
臨床検査技師である私も学生の頃に打たされました^^;
A型肝炎と同じく、長期間の抗体獲得のために3回の接種が推奨されています。
腸チフス
必要度★☆☆
『腸チフス』という名前からも想像ができますが、感染が進むと腸から出血したり腸に穴が空いてしまうことがある病気です。
チフス菌に汚染された水や食事を取ることで感染します。
流行国に訪れる際は、生水や生物は避けることが予防に繋がります。
1度ワクチン接種をしていても3年経つと抗体が失われることがほとんどなので、それ以前に打った人は再度打つと良いでしょう。
ただ、予防接種の効果がそれほど高くないことと、仮に腸チフスに感染しても抗生物質で治療ができる病気ですので、必要度は高くないと考えます。
マラリア
必要度★☆☆(国によっては★★★)
マラリアは予防接種とは違い、『予防薬』の服用となります。
マラリアとはマラリア原虫という寄生虫に感染することでなる病気です。この原虫を保持した蚊に刺させることで感染します。
マラリアには熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリアの4種類が存在します。
個人的には熱帯熱マラリア原虫が1番好きです。輪状体がキレイで、生殖母体で半月の形をするのが…
というマニアックな話はやめておきましょう。。。
かくいうこの熱帯熱マラリアが1番危険なのですが…
感染すると1〜4週間の潜伏期間を経て、発熱、嘔吐、関節痛などの症状が出ます。熱帯熱マラリアの場合、発症から24時間以内に治療をしないと最悪の場合は死に至ります。
殺虫剤などで蚊の対策をすることが1番大切ですが、心配であれば予防薬の服用をしておきましょう。
サハラ以南のアフリカが最も感染リスクが高いので、そちらへ行かれる方は予防薬を強くお勧めします。
熱帯・亜熱帯地域でない国では発生がない国がほとんどですので、自分が訪れる国が流行国なのかどうか確認した上で検討すると良いでしょう。
その他必要な予防接種
日本脳炎
重要度★☆☆
日本脳炎とは日本脳炎ウィルスにかかることが原因で、蚊を介して感染します。
多くの人は感染しても気づかない程度の軽い症状だけで済みますが、ごく少数の人は頭痛、嘔吐、高熱といった症状の他、意識障害や麻痺などの症状が現れることもあり、場合によっては死に至ることもある病気です。
東南アジア、東アジア、南アジアの流行国へ行く場合は予防接種を検討してください。
ポリオ(急性灰白髄炎)
重要度★☆☆
ポリオはポリオウィルスが口の中に入り、それが腸内で増殖することで感染します。
ポリオウィルスに感染しても、多くの場合は目立った症状は現れず、気づかない間にこの病気に対する免疫が出来ます。
ところが、一部の人においては手足などに麻痺が現れることもあり、それが一生続くことも。
現在の日本では発生していない病気ではありますが、パキスタンやアフガニスタン、ナイジェリアなど流行している地域があります。
幼少期に予防接種を受けている人が多いかと思いますが、上記の流行国へいかれる方は渡航前に追加接種を受けることをお勧めします。
また、昭和50〜52年生まれの人は、ポリオに対する免疫が低いという調査結果が出ていますので、渡航先が流行国でなくても追加接種を検討してみてください。
麻疹・風疹
麻疹も風疹も感染力がとても強く、人から人へ感染する病気です。
現在の日本では定期予防接種が行われており、ほとんどの人が過去に2回の予防接種を受けています。
もし過去に予防接種を受けたことがない方、受けたかどうか分からない方は、渡航前に打っておくことをお勧めします。
また、中には過去に予防接種を打ったものの体から抗体が消えている人もいます。
心配な人は血液検査で抗体の有無を調べらますので、病院で検査してもらうのも良いでしょう。
臨床検査技師の私はどうしたか
予防接種の重要度を星で評価してきましたが、出来れば全ての予防接種を受けて欲しいものです。
と言いつつ、やはり時間や金銭面で難しい人もいるかと思います。私もそうでした…
臨床検査技師である私が私が世界一周する前に打った予防接種は以下の3種類。
①B型肝炎←医療従事者は必ず打つ予防接種の為
②破傷風
③黄熱病←コロンビアで無料で接種
この3つです。
B型肝炎ワクチンは、病院で勤務する人間であれば誰しもが打つものなので、『旅のため』に打ったという訳ではありませんが^_^;
また、麻疹風疹のワクチンは事前の血液検査で抗体が残っていることが分かっていましたので、予防接種は打ちませんでした。
自分が訪れる国、観光する場所を考えて選んだ結果がこれらの予防接種でした。
私と違い、東南アジアの山奥に行くよ〜などという人は狂犬病ワクチンは打って欲しいですし、自分に必要なワクチンは何なのか。しっかり考えて予防をしましょう。
命は一つしかありません。
感染してから後悔しても遅いのです。
ただし、これらの病気は日本では流行していないものばかりなので、急に病院へ行ってもワクチンが無いことが多いです。
特に黄熱病の予防接種は指定の機関でないと打つことが出来ません。
事前に病院へ電話をし、ワクチンが打てるかどうか確認してから行くようにしましょう。